今回は、話題書『伝え方』の著者・松永光弘氏と、ビジネス書編集者で当社代表の小早川の対談をご紹介します。松永氏は「編集家」として、出版だけでなく、企業のブランディングや広報、サービス開発、教育事業、地域創生など、さまざまなシーンで「人、モノ、コトの編集」に取り組んでいらっしゃいます。編集スキルや視点がビジネスや事業を成長させていく上で大切な理由について、語っていただきました。

「編集」とは対象を「価値化」すること

小早川:松永さんは本当にいろんな分野で「編集」を活かしておられますよね。活動を拝見していると編集の普遍性を感じます。

松永:編集というと、出版業界をイメージする人が多いようですが、そもそも出版だけのものではないはずなんです。映像にも編集という営みはありますし、データを編集するとも言います。もっと身近なところでは、スマホのメニューにも「編集」の文字がありますよね。編集は本来、特定の仕事のスキルではなく、普遍的な思考のフォームのようなものだと僕は思っています。

小早川:私も編集力を出版という枠を越えたものとして捉えているので、すごく共感できます。でも、どうしてそう考えるようになったのですか?

松永:友人から、立ち上げたばかりの出版社を手伝ってほしいと頼まれたのがきっかけでした。20数年前のことです。そこで本をつくることになったのですが、それまで僕は全然違った仕事をしていたので、当然、編集については何も知りません。だから見よう見まねで本をつくる一方で、いろんな人に会うたびに「編集って何ですか?」と質問を投げかけていたんです。さっきもお話ししたように他の分野にも編集はあるわけですから、きっと自分がわかっていないだけで、すべてに通じる編集のセオリーみたいなものを使って本をつくるのだろうと思っていたんですよね。

でも、有名な作家を担当したような編集者も含めて、ほとんどの人が明確な答えをもっていませんでした。それが僕にはすごく不可思議に思えて……。だって、自分がやっていることをはっきりと説明できないわけですから。

編集って何だろうと深く考えるようになったのは、そこからです。その後、広告会社やクリエイターから編集について教えてほしいと頼まれることが増えたので、説明していくなかで考えが固まっていきましたが、ちゃんと定義できるまでは「編集をやっている」と言うのに抵抗があって、「ブックプランナー」と名乗ったりもしていました。

小早川:その結果、「編集」をどう定義されるように?

松永:僕は「文脈をあやつって、物事の意味や価値をコントロールする」のが編集だと考えています。簡単に言えば、関係性の中での物事の価値化です。例えば、僕はいま小早川さんという聞き手との関係性のなかで「話し手」という意味の存在になっていますよね。でも、家に帰って娘の隣に座ると、何も言わなくても「父親」という意味になる。要するに、物事の意味は関係性の中で決まるんです。編集という営みは、この関係性をうまく使って、対象となる物事の意味や価値を規定したり、コントロールしたりしている。

出版もそうですよね。著者をどういう存在として価値づけるかを考えて本の企画にしていきます。メディアの記事にしても、事実や知見を解釈して意味づけていく。実際にはあまりはっきりと意識されていないかもしれませんが、そこには関係性から生まれる文脈が用いられています。僕が「編集の原理」と呼んでいるところで、ここがつかめると、いろんな分野で意識的に編集を使うことができます。

編集力をビジネスで活かすために

小早川:松永さんは企業などが抱える課題を編集の考え方で解決する「顧問編集者」のパイオニアでもあります。いつ頃からそういう仕事をされているのですか?

松永:「編集を多様な場で活用できる」と口にし始めたのが15年ほど前で、その頃から顧問という役割について考えて、その可能性を語ってきましたが、実際に「顧問編集者」という肩書きで仕事をするようになったのは今から9年くらい前です。いろいろと可能性を模索しましたが、「顧問=アドバイザー」という立場を踏まえて、企業のブランディングや広報の支援、経営者の相談相手といったところが、今は主な守備範囲になっていますね。

ただ、やっていることはあくまで編集です。「文脈をあやつって、物事の意味や価値をコントロールする」。課題はさまざまですが、すべて「編集の原理」を使って解決しています。

小早川:なるほど。編集力を使えば、いわば企業の参謀としての役割も果たせるわけですね。では、編集の活動領域を広げていくポイントはどこにあるとお考えですか?

松永:自分の仕事をきちんと説明できることだと思いますね。プロとして編集を使うわけですから、その仕事のどこが編集なのかを指摘できることが大切なのかなと。でないと「編集の仕事をした」とは言えませんから。

そのぶん、定義も大事なんだと思います。ときどき「編集とは魅力を引き出すこと」と説明されることがあるのですが、それだとデザインやスタイリストの仕事にもあてはまってしまう。ちゃんと編集だけにあてはまる説明がほしい。要するに、編集者がなんとなくいろんな仕事をするのではなく、ちゃんと意識的に編集を活かして仕事をするということです。それこそが信頼のベースになるわけだし、広がりはその先にあるのではないかと思っています。

【プロフィール】
松永光弘(まつなが・みつひろ)

編集家。

1971年、大阪生まれ。「編集を世の中に生かす」をテーマに、出版だけでなく、企業のブランディングや発信、サービス開発、教育事業、地域創生など、さまざまなシーンで「人、モノ、コトの編集」に取り組んでいる。これまで20年あまりにわたって、コミュニケーションやクリエイティブに関する書籍を企画・編集。クリエイティブディレクターの水野学氏や杉山恒太郎氏、伊藤直樹氏、放送作家の小山薫堂氏、コピーライターの眞木準氏、谷山雅計氏など、日本を代表するクリエイターたちの思想やものの考え方を世に伝えてきた。ロボットベンチャーをはじめとした企業のアドバイザーもつとめており、顧問編集者の先駆的存在としても知られる。また、社会人向けスクールの運営にたずさわるほか、自身でも大企業や自治体、大学などで編集やコミュニケーションに関する講演を多数実施し、好評を博している。自著に『「アタマのやわらかさ」の原理。クリエイティブな人たちは実は編集している』(インプレス刊)、『伝え方──伝えたいことを、伝えてはいけない。』(クロスメディア・パブリッシング刊)、編著に『ささるアイディア。なぜ彼らは「新しい答え」を思いつけるのか』(誠文堂新光社刊)がある。

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