本づくりから起業、経営、そして「編集4.0」へ——。
今年で創業20周年を迎えたクロスメディア・パブリッシング。代表・小早川幸一郎と広報・濱中悠花の対談形式で開催した「創業20周年記念セミナー」は、あらゆるステークホルダーの皆さまとともに、クロスメディアの軌跡とこれからをお伝えする場となりました。
編集者として歩み続けた30年、そして新たな仲間たちと築く次の10年へ。今回は、セミナーのハイライトをお届けします。

濱中:クロスメディアパブリッシング東京20周年記念セミナーを始めていきたいと思います。たくさんの方にお集まりいただき、緊張していますが、最後までよろしくお願いいたします。
今日お話しする内容としては、クロスメディアの創業者で代表の小早川の編集者としての30年、経営者としての20年をふり返りながら、編集力を生かして今クロスメディアが取り組んでいることなどを紹介しつつ、これから私たちが目指していく方向についてもお伝えしていきたいと思います。
小早川:このような素敵な場所でお話しできる機会をいただき、関係者の皆さんに感謝申し上げます。私はクロスメディア・パブリッシングの代表、小早川幸一郎と申します。
来月で50歳になります。編集者としてのキャリアは、20歳の学生時代に始まりました。今も毎月本を作っていて、締め切りに追われながら気がつけば30年。20代最後の日に独立し、起業してから会社も20年が経ちました。つまり、人生50年、編集者として30年、経営者としても20年という節目です。今日は短い時間ですが、編集の話、起業の話、出版業界の話などをお伝えできればと思っています。

当社主催のセミナーは大阪でも何度か開催しています。CCCさんにもご協力いただいて、これまでにもセミナーを実施してきました。ただ、通常の出版社のセミナーは著者が主役です。出版記念として著者が本について語る場ですが、今回は私、小早川がメインでお話しさせていただきます。これは私たちクロスメディアグループにとっても初めての形式です。
今回のセミナーは非常にユニークで、参加者には出版業界の方、書店の方、取引先、他社の出版社の方、そして著者や読者の方々がいらっしゃいます。本を出したいと思っている方、出版業界やメディア業界で働いてみたいという方もいらっしゃるでしょう。
すべての方に刺さる話ができるかは分かりませんが、皆さんに興味を持っていただけるようなお話ができればと思っています。
濱中:今回は東京・渋谷区を拠点とする当社が、大阪でイベントを開催するということで、なぜ大阪を選んだのかという点から話を始めたいと思います。

小早川:今回がこの取り組みの初回で、第一回を大阪で開催しています。今後、東京や名古屋、北海道、仙台、京都、広島、福岡と全国に展開していけたらと思っています。
大阪を選んだ理由ですが、私は東京出身ですが、実は父が大阪生まれで家庭内では関西弁が飛び交っていました。20年前に会社を立ち上げた当初、自分で作った本は自分で売らなければならず、首都圏以外の営業はすべて自分で回っていました。大阪・京阪神エリアには毎月2泊3日で来て、一日に10軒ほど書店を回って営業していました。その際に大阪の書店員の皆様に本当に支えていただき、関西の読者の方々の存在が今の当社の成長に大きく寄与しています。私にとって大阪は思い入れのある地なので、まずはここからスタートしたいと思いました。
また大きな目的として、関西での会社の認知度を高めたいという思いもあります。出版社の多くは東京にあり、関西には支社を持っている出版社もありますが、縮小傾向にあります。コロナもあり、支社を閉じるケースも増え、今や関西には出版社の存在感があまりないのが現状です。当社は逆に、関西に支社を設けて人員を増やし、書店や読者との距離を縮め、関係性を深めていく方向に舵を切っています。
そして関西の優秀な人材や魅力的な著者と出会い、採用し、読者や企業と共に近い距離で仕事をしていきたいと考えています。そのために、まずは私自身が会社や商品・サービスの魅力を自分の言葉で伝える必要があると思い、今回大阪でこのイベントを開催することにしました。
ということで、少し長くなってしまいましたが、自己紹介と大阪開催の背景についてお話しさせていただきました。
濱中:改めまして、広報の濱中です。なぜ私がここにいるかというと、広報担当だからという理由もありますが、私は大阪・泉佐野市出身で、大阪出身の社員の代表として今日お話しさせていただきます。
また、私は「編集者で経営者」というポッドキャストを配信しており、今日もリスナーの方が参加してくださっていると聞いています。このポッドキャストや、1年前に立ち上げたオウンドメディア「クロスメディアン」では、動画やインタビューを通じてクロスメディアグループの取り組みを伝える発信を行っています。
私は4年前に入社し、当初は編集志望でしたが、「広報をやってみないか」と会社から提案してもらい、そこから広報の仕事をスタートしました。今日のこのイベントでも、裏方としてではなく広報担当として積極的に関わらせていただいています。

小早川:濱中からありましたように、私は「編集者で経営者」として日々発信をしているのですが、実際に今でも本を作っています。やはり編集者としての仕事は、自己主張の強い著者をプロデュースすること。なので、あまり自分が前に出て話すことは少なかったんです。
でも、濱中が4年前に入社してから、「小早川さん、もっと前に出て話してください」と広報の立場から言ってくれて。「社長や創業者が話してくれるとやりやすいんです」と。私は「いやいや、そういうの苦手なんだよ」と言ってたんですけど、「自信持って話せば大丈夫です」と言われて、去年から自ら前に出て話すようになりました。それが今では楽しくなってしまって(笑)。最近ではYouTubeやポッドキャストなど、いろんな形で発信を始めています。1年前に比べたら、少しは話すのも上達した気がします。

濱中:さて、もしかしたら今日初めてクロスメディア・パブリッシングを知る方もいらっしゃるかもしれません。私たちは20年間、ビジネス書の専門出版社として活動してきました。最近ですと『世界の一流は「休日」に何をしているのか』という本や『おとな六法』などのベストセラーを輩出しています。
小早川:昨年の実績で言いますと、年間100冊のビジネス書を出版しています。創業当初は年間12冊、つまり月1冊のペースでしたが、今では年間100冊。そのうち50冊は商業出版、つまり書店に並ぶ商品としての本です。残りの50冊は「企業出版」と呼ばれるもので、企業や個人事業主のマーケティング、ブランディング、リクルーティングなどの目的で本を制作し、納品する形態です。書店に並ばないケースもありますが、年間100冊の出版を継続しています。
その中で毎年10万部を超えるヒットも生まれており、創業からずっと黒字で経営を続けてきました。

濱中:ここからは、小早川さんが20歳で編集者になった経緯についてお話ししてもらえますか。
小早川:はい。私は大学時代に編集を始めました。出版業界に興味があったわけではなく、たまたま大学の近くに出版社があり、そこでアルバイトをしていたのがきっかけです。
当時(1994年頃)、私はたまたまMacを持っていて、コンピューターに詳しかった。Windows 95が登場する直前で、その出版社が「これからはパソコンの時代だ」と考え、コンピューター書部門を立ち上げようとしていたタイミングでした。
「パソコン触れるなら、編集やってみない?」と声をかけてもらい、できるか分からないまま始めたのがきっかけです。そのまま学校にはあまり行かず、本を作る日々が始まりました。
最初はコンピューター書の編集者として、学生ながら契約社員のような形で働き、多くの本を出していました。しかし、コンピューターが一般化し、専門出版社が台頭してくると、出版社としても方向転換が必要に。そこで私はビジネス書の編集に移ることになりました。26歳くらいだったと思います。
ビジネス書の編集は、マニュアル中心のコンピューター書とは違い、働く人の潜在ニーズや心理的背景を読み解く力が求められます。編集の技術自体は同じでも、著者のアプローチやテーマの掘り下げ方はまったく異なりました。
当時の著者発掘は、今のようにSNSやYouTubeで目立つ人を探すのとは違い、本を書いている人、雑誌・新聞で見かける人、セミナーや講演会で面白い話をする人を現場で探していました。さらに、ブログやメルマガなど、SNSの先駆けのような媒体で発信している人を見つけて声をかけていったんです。
著者とのネットワークができると、「この人面白いよ」と紹介されるようにもなり、編集者として優秀な人々のハブのような存在になって、次々と著者候補と出会っていきました。
濱中: 私はもともと編集者というと「文章を読む・直す」といったイメージを持っていましたが、実際にはネットワーキングや人とのつながりを作る側面がとても強いですよね。編集者って、そもそもどんな仕事だと思いますか?
小早川: そうですね、私の考える編集とは「企画と制作」の両方です。ただアイデアを出すだけではなく、それを実際に形にして世の中に出すまで責任を持つこと。それが編集者の本質です。

濱中: せっかくなので、20代に小早川さんが手がけた本をいくつか紹介させてください。まずはこちらの『営業マンは断ることを覚えなさい』から。
小早川: これは独立前、ビジネス書の編集者になって初めて手がけた作品のひとつです。30年で600冊以上の本を作ってきましたが、これはその初期に作った1冊ですね。
実はこの本、社内の企画会議では一度却下されたんです。「営業マンが断るなんてありえない」と。でも私はどうしても出したくて、「売れなかったら給料もボーナスもいりません、それくらい本気です」とまで言い、企画を押し通しました(笑)。
結果、営業チームにも協力してもらい、プロモーションも工夫しました。書店員の方々にも協力してもらい、最初のヒットとなりました。この成功体験が、その後の編集者人生を大きく後押ししてくれました。
次に紹介するのは『当たり前だけどなかなかできない仕事のルール』です。これは私が独立直前に編集した作品で、約40万部売れました。シリーズ全体では300万部を超え、会社に大きく貢献しました。

濱中: この大ヒットの後、29歳の最後の日に起業を決意されたんですよね。その決断にはどんな背景があったんですか?
小早川: ちょうど周囲には、同世代の起業家が出てきた時代でした。彼らの姿を見て、「自分にもできるかもしれない」という気持ちが芽生えていました。
でも当時はベンチャーキャピタルもないし、シェアオフィスもない。敷金礼金、固定電話が必要で、銀行も融資してくれない。独立はとても大変でした。会社から編集長の内示を受けたとき、「ここで決断しないと辞められなくなる」と思い、勢いで起業を選びました。
濱中: 出版の仕事はやりがいもある一方、続ける覚悟も必要ですよね。
小早川: そうなんです。私は本という「最も密度の高いコンテンツ」を一度出版するだけで終わらせるのではなく、映像や音声、セミナーや研修、テキストなどに展開する「ワンソース・マルチユース」の可能性を感じていました。
そこで会社に企画書を出して提案したんですが、「それなら自分で会社を立ち上げた方がいいんじゃない?」という声もあり、それが独立の後押しになりました。また、出版社の多くは同族経営で、ナンバー2で終わってしまう未来も見えていました。最終的には「自分の人生のシナリオは自分で書きたい」と思ったことが決定打です。

濱中:社名の由来について聞きたいです。
小早川:本当は「クロスメディア」にしたかったんですが、「何それ?」と言われそうなので、「クロスメディア・パブリッシング」としました。
濱中:当時、どうやって起業のお金を集めたのですか。
小早川:お金はまったくありませんでした。退職金で創業しましたね。例えば1冊300万円かかる本を出すには1冊しか作れません。だから1作目が売れなかったら終わりです。
ただ、ありがたいことに、印刷会社さんが「お金は本が売れてからでいいよ」と言ってくださって。大手は前金を求めてきましたが、以前から関係のあった小さな印刷会社さんが支えてくれました。そのおかげでスタートを切ることができたんです。
濱中: 起業当時、全国を営業で回っていたというお話を以前に聞いたことがありますが、それまで編集者だった小早川さんにとって、営業活動は初めての経験だったと思います。実際どうでしたか?

小早川: そうですね。「新卒でまずは営業から」というのが一般的な流れだと思いますが、私は逆に営業は経験せず編集からキャリアを始めたので苦労しましたね。
会社を立ち上げた直後は、当然社員もいないので、自分で本をつくり、自分で営業するしかありませんでした。出版営業はアポイントなしで書店に飛び込むのが基本。「すみません、少しだけお時間いただけませんか?」とお願いして、本を紹介して回るわけです。
応援してくださる書店員さんもいれば、「今忙しいから」と取り合ってもらえないことも多かった。でも、毎月足を運び、汗をかきながら通っていると「この人は本気なんだ」と見てくれるようになりました。
実は、当時は出版社を立ち上げてもすぐに撤退するケースが少なくなかったんです。特にIT企業の関連会社などが参入しては数冊出して撤退する、そんなことが続いていたので、周囲の目も厳しかったです。でもあれこれ考えている暇もなく、とにかく良い本をつくることに必死でした。だから、3回、4回と通ううちに書店の方々も応援してくれるようになって、少しずつベストセラーが生まれ始めました。
徐々にクロスメディアとしても、私だけでなく若い編集者たちがどんどんヒットを生み出すようになりました。いわば、サッカーで言えばどこからでも点が取れる、野球ならどの打順からでもホームランが打てるチームになっていったんです。
濱中:そうやって社員も増え、組織が30人を超えたタイミングで、経営理念のビジョン・ミッション・バリューを定義した訳ですね。
小早川:そうです。ビジョンは「あらゆるメディアを通じて、人と企業の成長に寄与し、社会に新しい価値を提供する」。ミッションは「顧客の本質的な情報価値の最大化」。そして、バリューは「編集力」。
この理念に共感してくれる人しか採用しない、という方針を徹底するようになってから、去年は15名ほど採用しましたが、離職率はゼロ。労務問題も一切なくなり、組織としてのスピード感も格段に増しました。

濱中: 今、クロスメディアでは出版事業のほかに法人向けサービスも展開していますよね。
小早川: クロスメディアで年間100冊出しているうち、約半分が企業のマーケティング、ブランディング、リクルーティングなどを目的とした受託型の「企業出版」です。ベストセラー編集者が企業出版も手掛けることで、最近ではそこから10万部を超える書籍も出ています。
最近では、出版だけでなく、企業向けに「オフィスライブラリー」のような空間デザインサービスも提供していますし、ポッドキャストのプロデュースも法人向けに展開しています。
また、当社には社内に「デザイン室」や「コンテンツデザイン室」というライターチームがあり、企画から制作までを社内で完結できる体制があります。企業や大学の広報誌やオウンドメディア、ポッドキャストなども外注せずクロスメディアで完結しています。
濱中:クロスメディアが色々とサービス展開している背景には、「編集4.0」という独自のコンセプトがあります。
小早川:「編集1.0」はメディアの編集です。書籍、雑誌、映像、音楽などのコンテンツ編集を指します。「編集2.0」は人の編集で、著者や経営者、専門家の価値を最大化する、いわば“プロデュース”です。「編集3.0」は事業・企業の編集。自社や他社のビジネス自体を編集して価値を高めることです。ブランディング活動ともいえるでしょう。「編集4.0」は社会の編集です。社会課題の解決や価値創造に編集を活用する考え方です。この4つの次元を会社全体で体現していけるよう、これからも取り組んでいきたいと思います。
濱中: では最後に、私からクロスメディアグループが運営するメディアを紹介させてください。
1つは「StoryAge(ストーリーエイジ)」というメディアで、ストーリーの力でビジネスを変えることをテーマに、著者インタビューやビジネスの背景にある物語を発信しています。
もう1つは「クロスメディアン」。こちらはクロスメディアグループの社員、著者、パートナー企業など、関わる人々にスポットライトを当てるオウンドメディアです。動画やポッドキャストなど、多様なコンテンツを発信しています。
また、先月立ち上げたばかりの「業界ビジネスチャンネル」は「クロスメディアン」でも視聴いただけます。このチャンネルは『魚ビジネス』『肉ビジネス』『米ビジネス』といった書籍シリーズをYouTube番組として展開する新たな試みです。ぜひフォローしてください。最後までお聞きいただきありがとうございました。
小早川:ありがとうございました。

▼Podcast「小早川幸一郎の編集者で経営者」
Apple Podcast:https://x.gd/abzX7
Spotify:https://x.gd/rjAiL