7月25日(金)、新刊『目に見えない価値の伝え方』の刊行を記念し、三井物産発のリベラルアーツ系メディア「VOOX」とのコラボレーションにより、著者・今野有子さんによる一夜限りのスペシャルイベント「哲学的ワインテイスティング体験会」が開催されました。
告知後すぐに応募が殺到し、急遽増席するほど注目を集めた本イベント。
ただワインを味わうだけでなく、五感と思索を通して「価値とは何か」を深く探求する、豊かな時間となりました。
本記事では、当日のトークセッションや世界で唯一の「哲学的ワインテイスティング」の様子を、会場の熱気と共にお届けします。
期待感が渦巻く会場で、探求の夜が幕を開ける

会場となったのは、表参道にあるVOOXの拠点「Moon Creative Lab」。開場時刻の18時半になると、この日を心待ちにしていた参加者の皆様が続々と集まり、会場は始まる前から期待と高揚感に包まれていました。
当初45名の定員だった本イベントですが、予想をはるかに上回るご応募を頂き、なんと60名を超える方々にご参加いただくことに。関心の高さがうかがえます。
第一部|価値とは何か? ワインビジネスで培った「伝える技術」
開演時間になり、満場の拍手に迎えられて著者・今野有子さんが登壇。イベントはトークセッションから始まりました。

まず参加者の度肝を抜いたのは、そのユニークな自己紹介。ご自身の経歴をただ語るのではなく、これまで在籍した会社のロゴや居住した国の国旗といったシンボルを並べ、参加者に「これは何だと思いますか?」と問いかけるスタイルで、一気に会場の心を掴みます。

続いて、スクリーンにはワインが造られる現地の写真が次々と映し出されます。


「これはブルゴーニュの畑です」「この樽の中で…」と、今野さんが実際に醸造所に住み込み、ワイン造りをしたエピソードを披露。自分の担当の樽のワインが完成し、それを初めて味わったときには、思わず涙が溢れたと言います。

収穫から醸造まで全身でワインに向き合い、生産者と毎日語り一緒に過ごしてみて感じたことは、「造り手だってワインとは何かを本当にはわかっていない」「ワインとは造り手のフィロソフィーそのもの」ということ。
造り手も悩み、苦しみながら意思決定の連続で生み出され、さらに、熟成という時間を経て、予期せぬ変化をもたらしています。ワインの魅力とは過去であり、未来、つまり時間そのものである。
ワインを極めることは、人間と向き合うこと――そう気付いたと言います。
そして、トークの核心へ。書籍のテーマでもある「目に見えない価値を感じる/伝える」という観点からワインテイスティングについての解説がありました。
今野さんによれば、価値はワイン自体にあるのではなく、私とワインの”関係”の中で生まれるもの。
ワインはあなた自身の鏡。
そこに映るのは、あなたの感覚、記憶、偏見、そしてあなたという存在そのもの。
ワインテイスティングとは、自分がどのように世界を感じ、価値を見出しているかを探る哲学的な営みなのです。

第二部|世界で唯一の「哲学的ワインテイスティング」体験
トークで知的好奇心が刺激されたあとは、いよいよ本イベントのハイライト「二層構造ワインテイスティング」へ。
この夜のために用意されたのは、いずれも今野さんが現地で選び抜いた、スイス・ラヴォー地区、フランス・ブルゴーニュ、ルクセンブルクの希少なワイン。どれもピノ・ノワール(赤ワイン品種)100%で、しかも、すべてほとんど同じ時期につくられたものです(2016~17年)

スイス・ラヴォー地区

ラヴォー地区はレマン湖畔に広がる、ユネスコ世界遺産に登録されているブドウ畑。この地のブドウ栽培は、修道士たちが、神の創造した自然と向き合う行為として始めたといいます。ラヴォーの畑は、太陽・湖面の反射光・石垣の蓄熱という“3つの太陽”に支えられています。
フランス・ブルゴーニュ

ブルゴーニュの畑も修道士たちが始めたもので、1000年以上にわたりブドウ栽培が行われてきた歴史があります。その特徴は「クリマ」と呼ばれる畑の区画の考え方にあります。「クリマ」は単に“気候”ではなく、土壌・日照・地形・人間の知恵と歴史を含んだ複雑な概念。ブルゴーニュのワインを味わうことは、土地と人が織りなす対話の痕跡を読み取ることなのです。
ルクセンブルク

そして、最後にルクセンブルクは、まだ赤ワイン栽培の歴史が浅い地域だと言います。かつては白ワイン中心の地域でしたが、気候変動により、赤ワインの栽培が進みつつあります。
移ろいやすく、まだ確定していないルクセンブルクのピノ・ノワールは、飲むたびに違う顔を見せる、揺らぎと生成のワインと言えます。
まずはWSETロンドン本校仕込みの「オーセンティック・テイスティング」で、プロがどのようにワインを分析するのかを学びます。色、香り、味わいの要素を論理的に捉える「ソムリエ」の技法に、皆さん「なるほど!」と感嘆の声を上げていました。

そして、体験は「哲学的テイスティング」へ。銘柄を隠したブラインド形式で、3種のワインを比較します。
「香りが、味が、全然違う!」。会場のあちこちから、そんな驚きの声が聞こえてきます。
「正解を当てるのが目的ではありません。香りによってどんな記憶を思い出しますか?
それはあなたのどんな価値観とつながっていますか?」
今野さんのガイドで、参加者はワインを媒介にして自身の内なる感覚を探求していきます。
「1番のワインは、太陽の熱を感じる」「3番のワインからは、爽やかな冷風を感じる」
ワインと向き合うことは、土地や歴史と向き合うこと。さらに、自分自身と向き合うこと。そして、隣にいる人たちの感じ方を知り、その違いを面白がること――。まさに五感と思索が響きあう、豊かな時間が流れていました。
また、アルコールが苦手な方向けには、「高級ぶどうジュース」をベースに、3種類のお茶などをブレンドした特製ドリンクをご用意。ブラインドで「自分はいま何を飲んでいるのか」を当てる──そんなゲーム形式にした瞬間、普段は無意識に繰り返している飲むという行為が、一気に研ぎ澄まされた探求に変わります。
舌先に広がる温度や質感、鼻腔を抜ける香り、喉を通り過ぎた後に残る余韻……そのすべてに意識が向かい、五感が総動員されていきます。
味覚は五感の中でも唯一、能動的に“味わいにいく”ことを求められる感覚です。
この体験は、ただの飲食を「意思」と「主体性」を伴う能動的な営みに変え、私たちが忘れかけていた“味わう”という行為を再発見させてくれました。

第三部|華やかな料理と、交流の輪が広がる懇親会
感動的なテイスティングの後は、料理研究家・加瀬まなみさんによる特製フィンガーフードと共に、第三部の懇親会へ。
特に注目を集めたのは、東邦ガスがLNG(液化天然ガス)の冷熱を有効活用して陸上養殖する「知多クールサーモン」。サステナブルな背景を持つこのサーモンは、まさに「目に見えない価値」を体現しており、その美味しさに会話も弾みます。



イビサ島産の希少なスパークリングワインで乾杯し、会場は和やかな雰囲気に。参加者同士で感想を語り合ったり、今野さんに直接質問をしたりと、あちこちで交流の輪が広がっていました。
熱気と感動に包まれた2時間半は、あっという間に終演の時間を迎えました。
最後に、今野さんから参加者の皆様へメッセージが送られました。
ワインは、ただの飲み物ではありません。それは土地や人、歴史、そしてあなた自身を映し出す“鏡”であり、“時間そのもの”でもあります。造り手の意思決定や熟成の変化、その全てが積み重なって生まれた一杯を味わうとき、私たちはモノの奥に潜む“目に見えない価値”に触れています。
長年ワインと向き合う中で、価値とは“モノそのもの”ではなく、それに込められた時間や物語、人との関係性から生まれるものだと痛感したからです。
私が『目に見えない価値』というテーマにこだわるのは、どんなに機能が優れたモノでも、価格が安いモノでも、それだけでは人は動きません。そこに“意味”や“物語”、そして“感情”が重なったとき、初めて心から欲しいと思えるのです。
価値は、モノやサービスそのものに宿るのではなく、それとあなたとの“関係”の中で生まれます。もしあなたが今、「価格競争から抜け出したい」「もっと選ばれる存在になりたい」と思っているなら、その答えのヒントはきっと見つかります。
価値は目には見えませんが、確実に創り出すことができます。
ぜひ、この一冊とともに、あなた自身の“時間”と“価値”の物語を紡いでみてください。
今回のイベントの核となった今野有子さんの新刊『目に見えない価値の伝え方』は、全国の書店およびオンラインストアで好評発売中です。イベントで語られた哲学の神髄が、この一冊に詰まっています。ぜひお手に取って、あなただけの「価値」を見つける旅を続けてみてください。
■書籍情報

タイトル:『目に見えない価値の伝え方 顧客を感動させる提案の技術』
著者:今野有子
出版社:クロスメディア・パブリッシング
価格:1,870円(税込)
ご購入はこちら
■ 登壇者:今野有子(こんの・ゆうこ)
株式会社アルムンド代表取締役/Philosophy Technologies inc. Co-CEO
早稲田大学商学部卒業後、武田薬品、リクルートエージェント(現リクルート)で法人営業を経験。ニュージーランド、スペイン、フランスに留学後、株式会社アルムンドを創業し、ワインを通じて、新たな市場と顧客体験の創出に取り組んできた。ファイナルファンタジー30周年記念ワイン(スクウェア‧エニックス)をはじめ、ヤマハ、NTTドコモ、東急不動産、関⻄電力グループなど、多業種にわたる大手企業とのコラボレーションを実現。
ワインの輸入販売にとどまらず、ボルドーやブルゴーニュ、ロンドンで得たワインの知見を活かした様々なイベント企画、高級旅館やミシュラン星付きレストランなど、ハイエンド顧客層にコンサルティングを多数手掛ける。これまで6カ国で4言語を用いて生活した経験から培った多文化的な視点を強みに、現在はシリコンバレーを拠点に、哲学的思考を活用したビジネスをグローバルに展開している。共著に『ルクセンブルクを知るための50章』(明石書店)。
今野さんの著書『目に見えない価値の伝え方 顧客を感動させる提案の技術』(クロスメディア・パブリッシング)をお買い求めの方はこちらからどうぞ。
■ 料理提供:加瀬まなみ(かせ・まなみ)
埼玉県熊谷市出身。両親在住時スペインにて家庭料理を学び、スペイン料理を中心に料理研究家として活動。メディア・イベント出演、出張シェフ、撮影監修、料理教室、レシピ開発のほか、All Aboutスペイングルメガイド、ippinキュレーターなど執筆活動も行う。 全国タパス選手権 2023年 優勝 審査員最高得点賞 受賞。著書に『フライパンひとつでできる絶品パエリア』(TATSUMI MOOK)、『5分でできた!シリーズ 全7冊』(角川SSC)、『2stepレシピお米でつくるたのしいごはん』(東京地図出版)、『月刊いちばんやさしいスペイン料理』(miilマガジン)ほか
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