「自分にぴったりの仕事を見つけたい」。
就職や転職を考えるとき、私たちはつい「給料」「業界の将来性」「自分の強みや直感」を基準にしてしまいます。
『科学的な適職』著者の鈴木祐氏によると、多くの人が信じるこれらの基準には、実は「失敗の落とし穴」が隠されているといいます。
仕事選びの新基準を解き明かすため、先日、鈴木氏をゲストに迎え、大学生向けのワークショップイベントを開催しました。
イベントは、鈴木祐氏が大学生の質問に答えながらインタラクティブに進行しました。真にワクワクしながら働き続けるための「最適解」を深掘りした当日の様子をQ&A形式でお届けします。

Q. 給料が高い仕事を選べば、人生の幸福度は上がりますか?
鈴木氏:年収と幸福度の相関は「年収1,000万円」でほぼ横ばいになります。
行動経済学の研究では、年収1,000万円を超えると、いくら稼いでも幸福度はほぼ変わりません。稼いだ分に見合った幸福度が得られないため、給料で仕事を選ぶのは非常に「コスパが悪い」といえます。
Q. 肩書や職種で仕事を選ぶと、ミスマッチが生じやすいのではないでしょうか。
鈴木氏:その通りです。肩書きだけで選んでも、実態を見極めなければミスマッチを防ぐことはできません。
表面的なスペックではなく、「誰と働くか」のほうが遥かに重要です。成長している業界や好きな職種で仕事を選んでも、上司との相性が悪ければ幸福度は下がってしまうでしょう。
Q. 「楽さ」で仕事を選ぶと、成長を感じられなくなりませんか?
鈴木氏:人間には「適度なストレス」が必要です。楽すぎると、逆にやる気を失ってしまいまうでしょう。
RPGを想像してみてください。最弱のモンスターを倒し続けていても、飽きてしまいますよね。かといっていきなりラスボスと戦えば死んでしまいます。
仕事も同じです。楽すぎてもストレスが多すぎてもダメ。その中間で働いている人の幸福度が一番高くなります。

Q. 性格テストで仕事を選ぶことの問題点は何ですか?
鈴木氏:残念ながら、ほとんどの性格テストは適職選びの役に立ちません。
特にMBTIは、主観的な分類に基づいているので、その人のキャリアパスや将来の収入、幸福度を予測する力はゼロに近いという検証結果が出ています。
性格テストは職種選びの正解を示してくれるわけではないのです。
そもそも、計画性を持って物事を達成できる人は、どんな業種でも成功するでしょう。
Q. 直感で仕事を選ぶことのリスクは高いですか?
鈴木氏:その通りです。直感が正しい判断を生むのは、「明確なルール」と「即座のフィードバック(勝敗)」がある世界だけです。 キャリアの正解にはルールがありません。明日どの業種が利益をあげるかわからない世界で直感に頼ると、自分に都合の良い情報だけを集めて判断してしまうでしょう。
また、自分の強みを元に職種を選ぶこともリスクが高いといえます。どの世界にも自分よりすごい人は存在します。「自分はこれが得意だ」と一本に絞ると、周りと比べて落ち込んでしまい、失敗することが多いです。

続いて、仕事選びの参考基準となる「7つの徳目」をもとに、適職選びの最適解を話し合いました。
●「7つの徳目」
自由:裁量権はあるか?
達成:日々、進歩を感じられるか?
焦点:自分の性格に合っているか?
明確:するべきことが明確か?
多様:豊富な経験を積むことができるか?
仲間:同じ志を持つ人がいるか?
貢献:誰かの役に立つか?
Q. 「自由」は達成感につながりますか?
鈴木氏:つながります。「不自由」は人間にとって猛烈なストレスになります。上司が細かく指示を出す職場環境は、1日にタバコを15本吸うほどの健康リスクに値すると言われています。
Q. 日々の「達成」感を得るために、大きな成果は必要ですか?
鈴木氏:モチベーションを維持するには「ミクロな達成」で十分です。
ある研究では、あらかじめスタンプがいくつか押されたポイントカードのほうが、白紙のカードより早くポイントを貯められることが証明されています。
「今日はここを改善した」という小さな達成で構いません。疲れている時は、確実に達成できる小さなタスクを自分に用意してあげると、モチベーションにつながります。
Q. モチベーションにつながる「焦点」は人によって異なると思うのですが、正解はありますか?
鈴木氏:モチベーションの型(攻撃型・防御型)に仕事を合わせるのが唯一の正解です。
「制御焦点」という理論に基づき、自分を以下の2タイプに分類すると良いでしょう。
-
攻撃型: 利益を求め、ためらわずに起業や挑戦をするタイプ
-
防御型: ミスや失敗を減らす作業に意欲が湧くタイプ。
タイプに合わない仕事を割り当てられると、パフォーマンスは劇的に低下します。自分の作業をどちらの型に寄せるかで、幸福度は変わるでしょう。
Q. 「明確」という徳目には、何が含まれますか?
鈴木氏:「透明性」の明確さが不可欠です。
昇進理由などが不透明な職場は、不公平感が蔓延し、社員のモチベーションは低下します。透明性がない職場は、働く人の心を澱ませてしまうのです。評価基準がオープンで「納得感」があることが必要です。

Q. 仕事が「多様」であることのメリットは何ですか?
鈴木氏:仕事の全体像が見え、「意味」を実感できることです。
一つの作業を続けていると、自分の仕事が何の役に立っているか分からなくなります。理想は、企画から消費者の手に届くまで見渡せること。全体の中での自分の役割を理解できて初めて、仕事は「意味のあるもの」になるのです。
Q. 職場の「仲間」は、仕事の成果にどう影響しますか?
鈴木氏:職場に友人が一人いるだけで、モチベーションは7倍に跳ね上がるという研究結果があります。
孤独はがんや脳卒中のリスクを高めるほど有害です。 何気ないことを話せる仲間の存在は、どんな福利厚生よりも幸福度につながります。どんなに条件が良くても、孤独な職場環境はメンタル不調につながるでしょう。
Q. 「貢献」は綺麗事のように聞こえるのですが、本当に必要ですか?
鈴木氏:決して綺麗事ではありません。
「自分の行動が誰に役立っているのか知りたい」という気持ちは、人間の本能的な欲求です。 GoogleやFacebookのエンジニアが定期的にエンドユーザーに会うのは、自分の仕事の「影響」を実感してモチベーションを維持するためです。フィードバックのない仕事は、虚無感につながるのです。

~鈴木氏のコメント~
「自分が何にワクワクするのか」。ここを突き詰めていくと、仕事選びは大きく変わります。
僕自身、最近、バラバラな情報を一つの「体系」として組み立て直す作業に、猛烈にテンションが上がるということに気づいたんです。
自分が夢中になれる作業をみつければ、それに関する職業をリストアップするといいでしょう。
業界は何でも構いません。「抽象度の高い価値観」さえ満たされていれば、人間は幸せに働くことができます。一つの職種に縛られるのではなく、ベースとなる価値観を固めることができれば、可能性はいくらでも枝分かれして、自由に広げていくことができるのです。
~まとめ~
「自分に合う仕事がわからない」と悩む人の多くは、適性や直感に答えを求めすぎているのかもしれません。しかし鈴木氏が説くように、仕事における幸福度は「誰と、どんな風に働くか」という環境との相互作用にあります。
「自由」や「貢献」をはじめとする「7つの徳目」で今の状況を測り、ベースとなる価値観さえ固まれば、一つの職種に固執する必要はありません。
仕事選びの基準を「自分の中の正解探し」から「自分を活かせる環境選び」へとシフトさせることで、キャリアの可能性を無限に広げることができる。そう鈴木氏の語りから教わりました。
【プロフィール】
鈴木祐(すずき・ゆう)
新進気鋭のサイエンスライター。1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。近年はヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。著書に『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)他多数。
『科学的な適職』
1,760円(本体1,600円+税)円
Amazon.co.jpで購入する