クロスメディアグループのデザイナーは、書籍だけでなく、広告、ロゴ、WEBサイトなど、さまざまなデザインを手掛けています。そのため、関わるプロジェクトや人が多く、良質なアウトプットを生んでいくためには関係性づくりが欠かせません。今回はデザイナーの城(じょう)に、良いチームをつくるために大切にしていることを聞きました。
「見やすさ」か「個性」か
ーー出版社のデザイナーの仕事は特殊だと思いますか?
城:クロスメディアに入る前は、書籍関連のデザインは一切やったことがありませんでした。前職では大企業の仕事を手掛けていて、CMに出演するような著名人と一緒になることもありました。広告ツールの制作が主な仕事で、比較的、大きな仕事が多かったです。いまでも街を歩いていたら自分がデザインした看板を見かけたり、電車に乗ったら自分が手掛けた広告が貼られていたり、CMを見ていたら自分のつくったロゴが出てきたりします。
極端な言い方かもしれませんが、広告はクライアント先行なので、どうしても事務的、機械的なデザインになります。広告デザインをしている時は、「より見やすく、伝わるように」を一番大事にしていて、どこか自分を押し殺す感じがありました。
本の装丁に関しては、デザインといわれる仕事の中でも特殊だと思います。どちらかというと、「アート」寄りのデザインが求められるんですよね。書店にたくさん並べられる中で、個性を表現しなければならない。もちろん、本の装丁も明確な読者ターゲットがいるので、編集者の考えも尊重して、完全なアート作品にならないように気を付けています。
ーーいまの仕事で「自分らしい」デザインができていると感じる瞬間はありますか?
城:もちろんあります。良い意味で「遊べたな」と感じるものは多いですね。本は広告などに比べて紙面が小さいという制限はありますが、デザイン性に関しては良くも悪くも縛りが少なく、自由にやらせてもらっている感覚があります。
制約があるほうがデザインしやすいという面もあって、クロスメディアに入社した当初は戸惑うこともありました。逆に、縛りのないブックデザインから広告業界に移って、苦労をする人もいると思います。いまでは、特にどちらがやりやすいというのはなくなりましたね。
ーークロスメディアでのデザイナーという仕事について、ユニークなポイントはどこでしょうか?
城:本のデザインだけでなく、幅広いことに携われる点ではないでしょうか。WEB、広告、チラシ、パンフレット、バナー、ロゴなど扱うものもそうですし、その内容も書籍だったり、ジムだったり、セミナーだったりとさまざまで、バラエティーに富んでいると思います。だからこそ、前職でやってきたことがそのまま生きることがたくさんあってうれしいです。
いろいろなデザインをしたい人にとっては、クロスメディアは刺激的で経験を積みやすい環境ではないでしょうか。「これだけやりたい」とこだわる人よりは、「何でもやります」くらいの人のほうが良いかもしれません。ブックデザイナーやエディトリアルデザイナーと呼ばれるような、本の装丁デザインを専門にしたい人は、当社にはフィットしないと思います。本当に、いろいろとやらないといけないので(笑)。
「夢中」をデザインする
ーー仕事を楽しむために工夫していることはありますか?
城:仕事に夢中になり、時間があっという間に過ぎていることがよくあります。私の場合、「何を作っているのか」ではなく、「誰と、何のためにやっているのか」が明確であれば仕事に熱中できるんです。「この人たちと、あのゴールに向かって一緒に良いものをつくっていこう」となると、「0.1ミリでもこだわっていこう」と向き合える。自分を夢中にさせられるかどうかで、仕事の質や量が圧倒的に変わりますね。
ーーお客様との関係性の中で、「夢中」をつくるために心がけていることはありますか?
城:とにかく事前に相手に関する情報をできるだけ多く集めること。これに尽きると思います。調べるというより、「好きになれる要素を見つけにいく」というイメージです。相手を「好き」になれると、自然に相手の状況や課題も考えやすくなります。「好き」の対象は、その担当の方でもいいし、その会社でもいい。普段私たちが人間関係を築くのと同じ感覚で楽しく情報を集めています。
それから、相手の業界や競合についても知ることを心がけています。相手と同じ方向を向いて、同じゴールに向かっていくわけですから。
ーーチームで動いていくときに大事にしていることはありますか?
城:これも同じです。編集者やプロジェクトリーダーなど、制作に関わっている人たちと良い関係性がつくれたら、良い化学反応が起こります。それがどこかの部分で対立していると、最終的に良いアウトプットにならないんですよね。楽しみながらのほうが、絶対に良いものができる。もちろん、多少意見がぶつかることはありますが、共通の目標に向かっていれば、人間関係で問題になることは少ないと思います。
そうした点で、みんなが仕事がしやすいように、「話しやすいデザイナー」であることを意識しています。「話しかけては迷惑だろうな」と思わせてしまっては、みんなが納得できるものは生まれません。気軽に相談ができるようなコミュニケーションを心がけています。
クライアントの欲しいものをつくれる理由
ーーデザインに詳しくないクライアントもいると思いますが、そのニーズを引き出すために心がけていることは何ですか?
城:クライアント側が完成イメージをまったく持っていない状態で、打ち合わせをすることがあります。その段階で、「どういう色が好みですか」「かっこいいのとかわいいのなら、どっちですか」といったように、分かりやすい言葉を使いながら、どんどん選択肢を狭めて完成形に近づける作業をします。
デザイナーという仕事では、どうしてもクライアントから「思っていたものと違う」と言われてしまうことがありますが、私の場合、比較的少ないと思います。それは、いろいろなパターンを出すからです。「城さんが言った通り、こうなりましたね。こっちにしましょう」となることもあるし、やっぱりクライアントさんのアイデアを採用することになったり。手間はかかりますが、決まってから「もしかしたら、こういうのが良かったんじゃないか」となるのを防ぐことができ、かえって早く完成させることができます。クライアントも数ある中から選んだという実感があるので、仕上がったあとの満足度も高くなります。
それから、常に納期の前に出すように心がけています。もちろん、それが叶わないこともありますが。
ーー質の高いアウトプットをスピード感をもって生み出すために、心がけていることはありますか?
城:これも、事前準備ですね。例えば、頂いた参考資料をもとに、事前に自分のアイデアを整理し、文字だけでまとめた提案資料を用意することがあります。仮説で構成や全体コンセプトなど大枠を提案できれば、クライアント側も自分たちが欲しいものが何か、言葉にしやすくなります。
身の回りにあるデザインの「意図」を読み解く
ーークライアントとのコミュニケーションもデザインの仕上がりに影響があると思います。クライアントの要望をききながら、城さんご自身の「こだわり」をどのように伝えていますか?
城:最初の段階で自分として「芯」としてもっているものは伝えるようにしています。例えば、「この本は明朝体はほぼ確定ですね」とか。最初に狭めておくほうが、相手も決断しやすいことも多いんです。
あと、細部も含めて全部、説明できるようにしています。例えば、「なんでこの色なのか」「なんでこのサイズなのか」と聞かれても、「この色はちょっと目立ちにくいので、この色にしました」とか「この形だと角ばって見えてしまうので、綺麗な丸にしました」というように、理由を明確に言えるようにしています。
ーー仕事以外の場面でどのようなことを意識していますか?
城:私が思うデザイナーの仕事は、視覚的な「通訳」をすること。クライアントやプロジェクトメンバーの考えを目に見える形にする仕事だと捉えています。何かほかの人の作品を見て、どんな「通訳」作業がはいってこのビジュアルになったのかを、自分なりに分解して想像するようにしています。
例えば、「きっとデザイナーはこう思ったけど、クライアント側の考えを大事にして作ったんだな」とか「ここは何回も修正がはいったんだろうな」とか。勝手にそれぞれの考えを想像して、作品を眺める癖がついています。書籍や広告の場合、デザインは一人で生まれるものではないですからね。
「城さんらしい作品ですね」と言われるより、「毎回違うものをつくってくれて、いいですね」とか「城さんらしくない」と言われるほうがうれしい。関わる人や目指すものによって、アウトプットを自由自在に変えていけるように、ほかの人の作品をみて分析する習慣がついたのだと思います。
見る人の「風景」を変えたい
ーーデザイナーとして、今後どのようなスキルを身に付けたいですか?
城:デザイナーとしてレベルアップするために、デザイン以外のスキルを身に付けたいですね。例えば「話術」なども良いかもしれません。デザイナーとして、分かりやすく相手に伝える表現力が身に付くと思います。
ーー仕事を通してやりたいことは?
城:私の場合、特に「これを手掛けたい」とか、そういうものは明確にないんです。さっきもお伝えしたとおり、一緒に楽しく取り組める人と仕事がしたいですね。例えば、他人からどれだけ不満を言われても、物事が思うように進まなくても、明るく前向きに受け止めて、ポジティブでいられる人と仕事ができれば最高ですよね。自分もそういう空気をつくれるように、意識はしているつもりです。
自分の役割を明確にできている人は、仕事を楽しめると思うんです。私の場合、デザイナーとして「風景を変える」仕事をしたいと思っています。例えば、看板とかポスターとか、そこに存在するだけで見る人の風景を変えることができますよね。その場を明るくもできるし、暗くもできる。そのときの情報や状況が明るければ、明るい雰囲気をそのまま伝えれば良いし、暗い出来事が起こったとしても、少しでも気持ちが明るくなるものをつくる。それがデザイナーの役割だと思っているので、仕事を楽しめるのだと思います。
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