「銀行=お金を貸す場所」「ATM」……そんなイメージを覆す、ちょっと変わった部署がメガバンクにあるのをご存知でしょうか?
今回は、株式会社三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)デジタル戦略部の中井沙織さんをゲストに迎え、東京駅の目の前にある共創施設「Hoops Link Tokyo」にて、銀行の常識を超える挑戦について伺いました。
銀行を「社長製造業」へ――。 そう語る中井沙織さんは、「技術は使われなければ意味がない」という徹底した現場主義でDXを推進しています。
巨大組織において新規事業をボランティアで終わらせないための収益設計と、宇宙開発から海の自動運転までを見据え、「かつて銀行と呼ばれていた場所」を目指す挑戦の真意に迫ります。

「銀行=堅い」のイメージを変えたい
入江: 今日は東京駅の真隣にある「Hoops Link Tokyo」にお邪魔しています。ここは以前、渋谷にあった施設が移転してきた形ですよね。この場所にはどういった意味が込められているんでしょうか?
中井: 「Link」という名前の通り、この輪っかの中に、私たちのお客様や競合他社、パートナー企業など、皆さんが集まるイメージです。 その輪をくぐって、新しいサービスや世界観を共に作っていく「共創施設」としての立ち位置ですね。 ここでは会議室で協業の話をするだけでなく、ピッチコンテストやイベントを行って、業界全体を盛り上げていく発信基地のような役割を担っています。「半沢直樹」に出てくるような銀行の重厚な会議室とは全く違う、オープンな雰囲気でやっています(笑)。

入江: 本当におしゃれで開かれた空間ですよね。今回、中井さんに出演いただいた経緯も少し変わっていて、弊社の広報担当がX(旧Twitter)で中井さんと繋がったのがきっかけでした。 銀行の方が、個人として顔を出してSNSで発信されていること自体、とても新しい動きだと感じました。
中井: そうですね。銀行の中では、デジタル戦略部はちょっと変わった部署なんです。 やっぱり「知ってもらわないと選んでもらえない」という危機感があります。パートナーとして選んでもらうためにも、社員が発信する場を持つことは重要だと考えています。
入江: そもそも「デジタル戦略部」とは、どういった部署なんですか?
中井: 一言で言うと、「デジタル(最新テクノロジー)を使って新しいサービスを作る」ことがミッションです。 AIやロボット、メタバース、量子コンピューター、ブロックチェーンなど、まだ社会に根付いていない技術を使って、法人・個人問わず生活を変えうるサービスを検討し、社会に広めていく役割ですね。
入江: 銀行でそういった最先端のことをしている部隊がいるとは驚きです。
中井: だいたい知られていないですね。「お金を貸す人たちでしょ?」「ATM」ってよく言われます(笑)。 グループ全体で見ればまだまだ少数の部隊ですが、一体となって頑張っています。
テクノロジーは「使われないと意味がない」
入江: 中井さんは、具体的にどの分野をご担当されているんですか?
中井: 私は主にブロックチェーンを担当しています。 簡単に言うと、これまで個別の会社が持っていた「台帳(ノート)」を、みんなでつまびらかにして共有することで、社会を便利にする技術です。
ただ、私が大切にしているのは、「どんな技術であっても、使われないと意味がない」ということです。 お客様が「ブロックチェーンを使っている」と意識する必要は全くなくて、気づかないうちに便利に使っている状態が理想です。
入江: なるほど。技術そのものよりも、生活にどう馴染むかが大事なんですね。
中井: そうです。以前、私は通信会社にいたんですが、そこでも「いかに当たり前にするか」をスローガンにしていました。 投資も同じで、小難しい仕組みを理解してもらうより、スマホで簡単にできる体験の方が大事ですよね。 「SFみたいに便利なこと」を妄想するだけじゃなくて、テクノロジーを使って本当に実現・実装していくことが、私のライフワークだと思っています。

入江: 中井さんのキャリアと今の仕事がすごくリンクしていますね。 銀行というと堅いイメージがありますが、デジタル戦略部の雰囲気はいかがですか?
中井: 基本的には服装も自由ですし、楽しい職場ですよ。「銀行はオワコンだ」とか「減点方式で怒鳴られる」みたいなイメージがあるかもしれませんが(笑)、全くそんなことはなくて。 もちろん、お金を扱う以上、これまでの信頼や「守り」の部分は非常に大切です。でも、新しい発想で異業種と組んでいくには、これまでとは違う考え方で動く必要があります。
入江: 既存の「守り」が得意な部門の方々からの理解を得るのは大変ではないですか?
中井: そこは非常に丁寧に説明しています。「テクノロジーすごいでしょう!」とドヤ顔をするのは論外で、「この技術がどうお客様の役に立つのか」「どうやって収益を上げるのか(儲けるのか)」をしっかり話せるようにすることを大切にしています。 事業として継続するためには、ボランティアではなく、しっかり収益設計をしないとお客様にも迷惑をかけてしまいますから。
入江: 「夢」と「現実的な収益」の両輪が必要なんですね。それは多くの企業の新規事業担当者がぶつかる壁かもしれません。クロスメディアも動画など新しい媒体に挑戦中ですが、どのように会社の利益に還元するかということをしっかり考えなければと実感しています。
中井: そうですね。「やったことのないドアをこじ開けていく」ことに楽しさを見いだせる人には向いている職場です。 一方で、守りが得意な人も組織には必要です。攻めが得意な人、守りが得意な人、それぞれの得意分野で協力し合えるのが大企業の安心感であり強みですね。 最近は特に、プロジェクトを進めるために「朝は笑顔で会議に行く」「ストレスを溜めない」ことを心がけています(笑)。

メガバンクの“イントレプレナーシップ”
入江: デジタル戦略部では、他社との協業が多いんですか?
中井: はい、8~9割は他社の方と組んで仕事をしています。常識やカルチャーが全く違う方々と、同じゴールを目指して動いています。
入江: 具体的な成功事例などがあれば教えてください。
中井: わかりやすい例だと、「SMBCクラウドサイン」という会社があります。 これはハンコではなく電子で契約書を管理するサービスなんですが、実はこれ、デジタル戦略部の部員が社長になって立ち上げた会社なんです。 私たちはこれを「社長製造業」と呼んだりしているんですが、銀行員が自ら社長となってスタートアップを作っていく、成功事例の一つですね。
入江: すごいですね! 銀行の中から社長が生まれるなんて、夢があります。
中井: そうなんです。だから「チャレンジしたい」という人にはすごくいい職場だと実感しています。 今は中途採用も多いですが、若手の行員が希望して異動してくることもあります。「銀行はオワコンじゃない、むしろ希望に溢れている」と伝えたいですね。
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「昔、銀行と呼ばれていた」未来を目指して
入江: 最後に、デジタル戦略部として、そして中井さん個人として目指している未来を教えてください。
中井: 部署としては、「銀行っしょ? ATMっしょ?」というイメージを脱却して、「デジタルに強いソリューションプロバイダー」として認知されることを目指しています。 以前の社長が「昔、銀行と呼ばれていた」という標語を掲げていたんですが、まさにその立ち位置を目指しています。 金融だけでなく、非金融の領域にも乗り出し、「常識を突き抜ける」サービスを作っていきたいですね。
入江: 「突き抜ける」……力強い言葉ですね。中井さん個人としてはいかがですか?
中井: もう、やりたいことがありすぎて体が足りないくらいなんですが(笑)。 やっぱりテクノロジーを社会に広めることが好きなので、まだ一般に浸透していない技術に関わっていきたいです。 例えば、宇宙開発や自動運転。特に私は船舶の免許を持っているので、「海の自動運転」には興味があります。
入江: 海の自動運転ですか!
中井: 船の着岸ってすごく難しいんですよ、私もよくぶつけるんですけど(笑)。 あれが自動になれば、誰でも海を移動手段として使えるようになりますよね。 そういった、まだ開拓されていない可能性をテクノロジーで広げていくことに、これからも携わっていきたいと思っています。
入江: 一見、金融とは関係なさそうな分野でも、共創することで広がる可能性を感じました。中井さんの今後の活躍にも注目しています。本日はありがとうございました!
中井: ありがとうございました。

【編集後記】
「銀行員」という枠にとらわれず、楽しそうに未来を語る中井さんの姿が印象的でした。守るべき信頼と、攻めるべき革新。その両方を持つSMBCグループのデジタル戦略部は、まさに「昔、銀行と呼ばれていた」未来を作る最前線なのかもしれません。
